【File008】Web制作・ニット講師 穴田篤子さん

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Web制作・ニット講師 穴田篤子さん

《プロフィール》
1963年金沢市生まれ。短大を卒業後、就職。27歳で結婚し兵庫県西宮市へ。二人目出産の後、どうしてもパソコンがほしくなり夫を説得して購入。10年前に夫の転勤で白山市に転居。子育てに専念していたが、6年前に自宅にてテープ起こしの仕事を開始。2010年秋からWeb制作サービス開業の意思を固め、2011年1月1日に開業。また同年の4月から株式会社フェリシモの「クチュリエの先生」として、金沢市で教室も開催予定。趣味は、小学校に上がる前 から親しんでいる編みもの。OL時代にはパッチワークキルトにのめりこみ、自己流で洋服製作も。現在は編みもの作品をメインに創作している。
■ニット雑貨製作&Web利用支援「sumirenoiro(すみれのいろ)」

インタビュー

好きなことを「仕事」にする。

Web制作とかぎ針編み講師。このほど、二つの両輪で自ら歩み出した穴田さん。分野違いの仕事の両立は大変では? という問いに「両方とも大好きで学び続けてきたこと。好きなら、あえてひとつにしぼらなくてもいいんじゃないの、と思いきって一緒に始めてしまいました」と笑います。やわらかなその表情には、起業にあたっての気負いは少しも感じられません。

幼い頃から編みものに熱中し、最近はネットの表現世界に魅了され、独学でサイト制作も行えるほどの技術を習得。そう、穴田さんの「好き」はとことんまで「極める」ことなのです。今回は、その「好き」を「仕事」にしていくチャレンジ。「そのまま趣味にしていても単なる自己満足に終わってしまいそうな気がして。

子育てが一段落した今、お仕事を通じて、さまざまな方と交流し、『母』や『妻』以外の自分自身を確認する場を持ちたいと思ったんです」。家事や子育てを中心に据え、そのベースを築き上げた歳月が自信につながったという穴田さん。これからは、自分の可能性をもっと外に開きたいと感じるようになったといいます。

編みものをもっと気軽に自由に。

時間のある時はいつも作品づくり。「大人の女性が身につけて楽しく、心に潤いが出るように」と考えながらの工夫が面白くてたまらないとか。

穴田さんの編みもの歴は、小学校に入る前から。お母さんの影響で、かぎ針編みを始め、学校に持っていくハーモニカや笛のケース、財布までも手作りしていました。「母がお店で毛糸を選ばせてくれるのがうれしくて。好きな糸、好みのデザインで創作する楽しさに目覚めたんです」。

その後、本を買い集めたり、編みもの教室にも通ったりと、ますますその奥深さにのめり込んでいきました。「影響を受けたのは、編みもの作家の下田直子さん。一目見て『かわいい!』と言いたくなるのですが、けしてデコラティヴではなく、大人っぽい落ち着きもあるんです。私も自分の作品では、かわいさもありながら大人が持てるシックさと上品さのあるものを、と心がけています」。

そんな作品づくりの日々の中、次第に「編みものの楽しさを人に教えたい」という気持ちも芽生えていきました。資格を取ることも考えましたが、一般の教室にありがちな高度な技術を教えることと、自分の方向性とは少し違うと感じました。穴田さんのベクトルは「もっと気軽に"かわいい"編みものを」だったのです。

“ネットに散らばる「私の世界」に開眼。

Web制作はお気に入りのノートパソコンとデスクトップの2台で。イラストやモチーフをふんだんに使ったナチュラルなサイトを得意とする穴田さんには素材集も必需品です。

もうひとつの「好きなこと」Webとの関わりは、西宮在住の頃、ご主人を説得してパソコンを購入して以来のこと。電化製品の説明書を読むのが大好きという穴田さんは、パソコン購入後のセットアップ(初心者には難易度高!)も自力でやってしまったそうです。

パソコンをつないだその先には、想像以上に多種多様な世界が広がっていました。「当時は、まだブログが普及しておらず、もっぱらホームページが主流でした。ちょうど一般の方が手作りした雑貨を直販するネットショップが流行し始めた頃でした」。

これなら私も作りたい! と思った穴田さんは、早速ホームページ制作ソフトやマニュアル本を購入し、独学で勉強を開始。スクールにも通わず、ひたすらコツコツと試行錯誤を重ね、とうとう手作り小物のネットショップ開設に至ります。

「でも、作品を売ることに熱意が持てず、続けるモチベーションがなくなってしまって」。しばらくしてショップを閉じた後、本当にやりたいことはWeb制作そのものだった、と気づいた穴田さん。「それなら、どんなやり方で?」というテーマを胸に、しばらく模索し続けることになります。

できることから、少しずつ。

バッグやショール、アクセサリーまで多彩な作品を手掛ける穴田さん。ネットショップのほか、手作り雑貨のイベントで販売したことも。商品の販売については現在検討中。

「ネットショップを作った頃は、西宮から地元に戻り、生活環境に余裕できて"何かやらなきゃ"と意気込みすぎてたかもしれない」。編みものもWeb制作も、好奇心のおもむくまま知識や技術をどんどん吸収しているのに、それをアウトプットする場がない…。「思えば、なんでも自分ひとりでやろうとしてました」と穴田さん。快活でおしゃべり好きながら、人に対して臆病で、心を閉じていた部分もあったといいます。

そんなエアーポケットに入ったような日々のなかにも、次々と状況の変化がありました。夫の父の介護をする義母を手伝い、そして最後の看取りまでも。子育て上の悩みを、忙しい夫に相談できず、ひとりで抱え込んだ時期もありました。「でも、そんな日常の中に実は変化の扉があったんです。義父の死に立ちあうことで"人生はあっという間。元気なうちにやりたいことをやらなければ"と思い知りました。そして子どもからは、"聞くこと"、"対話すること"の大切さを教えてもらった気がします」。

人の命や、自分の力の限りを知った穴田さんは「とにかく、できることから始めてみよう」と開き直る気持ちになれたといいます。

自分を開き、人の思いを活かしたい。

フェリシモのキットと完成品。「わずかな時間と予算で簡単に仕上げられるんです。初心者の方にもおすすめですよ」と穴田さん。

2011年の元旦にWeb制作サイトを立ち上げ、春からは株式会社フェリシモの「クチュリエの先生」として活動が始まる穴田さん。肩の力が抜け、等身大の自分を受け入れられるようになるにつれ、自然と周囲からの働きかけも活発になってきたと語ります。「コツコツやってきたことに、まわりの状況がついてきた感じ。結果が出なくても地道にやっていると、時期が来た時にそれまでの準備が生きることを、今実感しています」。

これからの豊富としては「サイト制作では、お客様の"思いを活かす"あたたかみのあるサイト作りのお手伝いをしていきたい。編みものでは、将来的にはオリジナルのキットづくりもやりたいですね」。

そんな穴田さんがウーマンスタイルについて思うのは「いろんな方々との交流の大切さに気づいた私にとって、こうした組織が地元にあって本当によかった。サイト制作の勉強会、iPhoneの講習会に参加して最新のIT情報を学び、関心を持つみなさんとお話できたことも貴重な体験でした」。

心を開き、人の考えを知ろうと努力し、新しい世界へとふみ出した穴田さん。これまで積み上げた「好きなこと」が、さまざまな人の「思い」とふれあう時、さらに豊かな相乗効果が生まれていくことでしょう。

ある1日の過ごし方

05:30
起床
06:00
朝食づくり、できたら洗濯、片付け
08:00
掃除、洗濯、片付け
09:00
パソコン作業
12:00
買い物、昼食&お昼寝
15:00
パソコン作業
18:00
夕食づくり、片付けなど家事、家族との時間
21:00
仕事の忙しい時はパソコン作業、なければ編み物など
01:00
就寝

わたしのお気に入り

編みものの仕事道具

毎日ふれる道具や素材はとことん吟味するという穴田さん。深みあるニュアンスで知られる京都の毛糸専門店「アヴリル」の糸は創作意欲をかきたててくれるそう。

愛飲している紅茶

気分転換や、気合いを入れる時、ゆったりする時に、いつもきっかけとして飲んでいる紅茶。豆乳入りのミルクティーにしてもおいしいのだとか

アメリカのAmazon.comで購入

バラの画家で有名なピエール=ジョゼフ・ルドゥテの画集と、日本でも人気の「のばらの村のものがたり」シリーズの原本。手に取るたび心が豊かになる2冊とのこと。

(文・写真 塩田陽子)